「イーグル、親父さんから電話。」
「はい?」

それは突然で、不可思議な出来事。


Surprise


オートザム国大統領府の一室、ほとんどゲストルームとして使われている部屋にイーグルはいた。
例によって、忙しいハズの父親に呼び出されての滞在である。
言わずと知れたことだが、イーグルの父親アルター・ビジョンは、この国の大統領。
軍事を含めた国政全般を取り仕切り、国を支える仕事をしている。
その重責も手伝ってアルターは大変な仕事家であり、集中しているときには食事さえもとらないという、厳格な仕事人間で知られる。
が、それが必ずしも当たっていないことを、彼の一人息子であるイーグルが一番よく知っていた。


『やりたいことがあるのなら、手を貸すから何でも言いなさい』 (手を貸す=圧力をかける)、

『具合悪いときは我慢しないで休みをとっていいんだよ?』 (長期休暇をとって帰ってこい)、

『お前の好む本は探すのが大変だ』 (実際に大統領本人が本屋に買いにいく)


など、これのどこが仕事人間なのか疑わしいほどの溺愛ぶりである。
それはともかく。
イーグルは大統領府にいながらにして、なぜ自分がここに呼ばれたのか未だ分からなかった。
数日前まで熱を出して寝込んでいたのは事実だが、それもすっかり治ったし、第一、治ったこと自体ジェオを通してアルターに伝わっているはず。
父親が心配性なのは嫌というほど分かっている。まさか治っていないと思って、逐一監視できるここに呼び出したんじゃ・・・・・
「いやぁ〜、あのカタブツ補佐官ときたら、何度も確認しなくともいいって言うのに。」
納得できない表情で椅子に座っていたイーグルのもとに、小言とともに問題の父がやってきた。
両の手に書類・・・?の山。
アルターはテーブルに書類を置くと、ポケットからホチキスを取り出し、イーグルに渡した。
「夕刻までにはまだ時間があるからな。手伝ってくれ。」
アルターも同じホチキスを持っている。
「え〜っと、つまりホチキス留めを僕にやらせるために、ここに?」
「ははは」
さも楽しそうに笑うアルターに、イーグルは深いため息をついた。
気を紛らわせるためなのか、はたまた話を逸らすためなのか、アルターは机に置いてあったリモコンのスイッチを押した。
テレビの電源がつき、軽快な音楽とともに夕方のバラエティー兼ニュース番組が始まった。


『みなさん、こんばんは。6月6日、イブニングアワーのお時間がやってまいりました。』
『まずはじめに、このコーナーです。』
『今日は何の日〜?♪♪♪今日、6月6日は・・・』


キャスターがフリップを取り出し、歴史上の出来事を視聴者に伝える。
有名週刊誌の創刊記念日、ある音楽家の命日、ルーベント・モウダーという画家の誕生日・・・
「ルーベント・モウダー?あれ?確か、うちにありませんでしたっけ?彼の絵。」
「ああ。美女の絵だろう?書庫に飾ってある。」
「彼の誕生日って今日だったんですか。はじめて知りました。僕、好きですよ、あの絵。」
ルーベント・モウダーは約300年前の画家である。美術界では今でも高い評価を得ている。
「6月6日って、ただの平日だと思ってました。」
「・・・だろうな。」
アルターがそう言いながらため息をつく。イーグルが不思議そうな顔をしたが、アルターは誤魔化した。
「さ、さっさと片付けるぞ。手伝え手伝え。」
手本を示すように先にカチャカチャと音を立てて作業をやり始めたアルター。
イーグルも仕方なく、同じように作業を進めた。


・・・・・・・・カチャ、カチャ、カチャ、カチャ・・・・・・・・


「熱は治ったのか?」
「・・・おかげさまで」
「お前の熱は薬を飲んでも治らないからなぁ。」
「僕の不注意なんです。寝てれば治ります。」


・・・・・・・・カチャ、カチャ、カチャ、カチャ・・・・・・・・


「・・・で、僕に何か御用だったんじゃないですか?」
「まぁな」
「・・・何です?まさか、ホチキス留めをする人員がいないんですか?」
「こういう事務的なことは暇なときに私がしてるんだ。コスト削減。」
余裕なのか本当に暇なのか、イーグルはこの人にオートザムを任せていて大丈夫だろうか、と本気で不安になった。
作業も終わり、大統領執務室にホチキスで留められた書類を置いて、アルターは出かける準備を始めた。









車は見慣れた道を通り、自宅へと到着した。
ドアを開けたとき、待ち構えていたかのように執事が飛び出してきた。
「おかえりなさいませ。イーグル様、旦那様。」
「あ〜あ〜疲れた。イーグル、気休めにワイン持ってきなさい。」
「僕がですかぁ?」
「何か不満でも?」
「・・・いいえ。行ってきます。」
イーグルはそそくさと地下へ通じる階段を降りていった。
子供のときほど怖くはないが、やはり地下は寒いし、誰かに見られているような感覚に囚われる。
特にワインセラーはワインに影響しないよう、人工光はなるべく控え、部屋の温度も低温に保たれている。
普段の感覚で入ると、幽霊屋敷なみの肌寒さを感じるのだ。
「あ・・・そういえば、何持っていけばいいのか聞くの忘れた・・・」
どうしようか考えてもみたが、また戻ってくるのも面倒だ。
棚に並べられているワインから、日付が遅いものを選んで、イーグルは部屋を出た。



しかし、いつも食事をする部屋に行くと、そこには何もなく誰もいなかった。
今日は何かがおかしい。
やけに人気がないし、さっきマーシャルに会ったのを最後に廊下ですれ違う人もいない。
イーグルはいぶかしんで最後の砦、リビングへと歩を進めた。
ドアが開き・・・まばゆい光とともに聞こえてきたのは-------------


「ハッピーバースデー!!イーグル!!」


暗いところからの戻ってきてあまり時間がたっていなかったせいか、イーグルが光に慣れるまで時間がかかった。
徐々に見えてきた明かりの下に、イーグルは見慣れた人々の笑顔を見た。
マーシャル、料理人さんやお手伝いの人たち、そしてジェオ、ザズ、父の姿。
テーブルにのっている料理、ケーキ。目を見張るものばかり。
何が起こったのか理解できずイーグルがその場に立ち尽くしていると、ジェオがぐいっと手を引っ張り、暖かい室内へと強引に引きずりこんだ。
「なーにぼーっとしてるんだよ!ほら!」
これまた強引にソファに座らせ、ジェオはふんっと鼻をならした。
「どうせ忘れてるだろうと思ってよ、悪いがお前ののんびりな性格を利用させてもらったぜ。」
「何のことですか・・・?」
「イーグル、今日、イーグルの誕生日だよ。知ってた?」
「たん・・・じょ・・・び?」
「あ〜あ〜。これだから、こののんびり者は。」
次々と言葉を浴びせかけられ、イーグルはますます訳が分からなくなってきた。だが、冷静に考えて分析してみる。
6月6日。画家の誕生日。誕生日、バースデー・・・僕。
「あ・・・・・6月6日でしたっけ、今日。」
ジェオとザズが一斉に肩を落とす。。アルターは呆れた笑顔、後ろで見守る家の人は楽しげな笑顔。
そうだった。今日は僕の誕生日だったんだ。
「でも、びっくりしました。ワイン落とすところでしたよ。」
「サプライズパーティって言葉知らないか?びっくりさせる為にやったんだ。」
「あ、でも!イーグル、びっくりしたんだよな!作戦成功だぜっ。」
「ああ。」
ビシッと親指を立てて任務完了のサインを出すザズに、決まったようにジェオも返す。
そこまできて、イーグルはようやく全てを理解した。
作戦。それは、僕を驚かせるための誕生パーティ。
夕方にパーティをやる作戦を立てて、それまで父上が僕を引き止める。
今日は平日、実家に帰る口実は僕にはないから、電話で呼び出す形をとって。
僕が父上のところでホチキス留めをやっている間、ジェオとザズは家の人と一緒に準備をしてくれていたのだ。
アルターはにこりと笑った。
「あまり派手な集まりは嫌だろう?内輪でやったほうが楽しいしな。」
本当ならイーグルの友人をめいっぱい集めるだけ集めて祝う、そんな誕生日が一番望ましいのであろうが、イーグルにはあまり友達といえる顔見知りがいない。
けれど、年に一回のこの日に主役を祝わないわけにはいかないから、アルターは自分の知り合いを呼べるだけ呼んでパーティを開いていた。
運の悪いことにアルターの知り合いも、大半が政治家や財界人。とても子供の誕生日を祝うような集まりではない。
いつだったかイーグルがジェオに漏らした愚痴を、アルターはきちんと分かっていた。
だから、きちんと形にしようと思い立った。それがこの内輪のパーティ。
ジェオはケーキを分け、ザズは料理を分け、アルターはワインを注ぐ(ジェオにはジュース)。

そこには、本当の家族のような温かさがあった。





The End


▼螺紗様の素敵サイト
作者様のコメント アメリカでよくあるという、ドッキリパーティをモチーフに作りました。
原作でジェオとパパは親交深い間柄らしい(?)ので、イーグルに隠して悪戯をするのも簡単でしょう。
たまにはイーグルを驚かせてみようじゃないか!
いつも振り回されているジェオも、乗り気だったと思います。
ビックリ成功!!



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