No title


青年が一人、遠い空を見つめていた。
静寂の中、伏目がちに俯いて、小さなモニターに映る青い空を。
ディスプレイから零れる碧い微かな明かりが、青年の顔に蒼ざめた陰影を刻んでいる。
椅子の背もたれにもたれ、唇を引き結んだまま。
物憂げな目をして、青年は白い指を青い空に伸ばす。
画面の、指先が触れた部分が、それを拒むように、微かに黄色がかった紫に変化する。
「…ディスプレイにお手を触れないでください、ってね。」
眉を下げ、クスリと口元に自嘲めいた微笑を浮かべ、彼はそっと手を引いた。
異国の青をそのままに、彼は天井を仰ぐ。
膝元にかけていた白いマントがずり落ちかけて、無造作に片手で掴むと片膝と一緒に、静かに胸元まで引き寄せる。
微かな衣擦れの音とともに、椅子の上で片膝を抱き。
やがて彼は、ゆっくりと、顔を伏せた。

微かな電子音と金属が擦れるような音とともに、その部屋の扉が開いた。
部屋に入ってくる靴音は、数歩分で止まる。
「…ランティスですか。」
呟きながら青年は、顔は上げぬまま音の方を微かに向き視線を扉の前にはしらせる。
「…何か?」
微かに眉を寄せて問いかけた青年に臆する様子もなく、むしろ安心したかのような足取りで、黒髪の男が、静寂の中に靴音を響かせながら歩み寄る。
「…ジェオたちが、おまえを探している。」
低く響く声で呟くように言いながら、男は傍らの椅子に無造作に腰掛けた。
「…僕を呼びに来ておきながら、何をのんきに座っているんです?」
青年が、目元に微かに笑みを浮かべる。
男が、応えるように、小さく肩を竦めた。
「…わからない人ですね、相変わらず。」
気だるげに顔を上げながら、どこか楽しげな響きを込めて呟いた青年を、深い紫の目が静かに見つめた。
「…僕の顔に、何かついてます?」
訝しげに眉を寄せる青年に、いや、と男は首を横に振る。
「…誕生日、だそうだな。」
ポツリと、唐突に黒髪の男が呟いた。
「祝われるのは、嫌いか…?」
青年は、視線を異国の空が映るモニターに向けて、小さく苦笑する。
「…僕は、軍人です。」
軽く首を傾げ、黒髪の男は相手の次の言葉を待つ。
「…人の命を、奪いもする。」
伏目がちに呟いて青年は、白い手を伸ばして小さな正方形のパネルに触れた。
幻想的な色を映し出していたモニターに、ふつりと平坦な静寂が訪れる。
「複雑なんですよ、生まれてきた日を、祝ってもらうというのは…。」
静かに、吐息混じりに呟いた青年に、黒髪の男は思案するように腕を組み目を伏せる。
「…祝いたい者がいる。それでは駄目か?」
小さく、囁くように、低い声が響く。
「…おまえが生まれてきたこと、今こうして生きていること…純粋に、ただそれを祝いたいと、そう願ってくれる者がいる。
 その思いに、応えるため。それではいけないか?」
静かな声に、青年は不思議そうに相手を見つめ、しばし聞き入り。
やがて心地よさそうに、どこか安堵したように、口元だけで小さく微笑んだ。
「…それは…いい考えですね…。」
呟きながら、マントを引き寄せつつゆっくり立ち上がる。
「…イーグル?」
腕にマントをかけたまま扉へと歩き出した相手に、黒髪の男が声をかける。
「…ジェオたちが、僕を探しているのでしょう?」
早く行かなくては、と付け加えながら振り返った青年は、目を細め、やわらかな笑顔を浮かべていた。
「…そうだな。」
促されるように男も立ち上がり、二人分の靴音が部屋に響く。
それも、微かな電子音と金属の擦れるような音を境に、ほどなく部屋から消えた。





▼なうかT様の素敵サイト
作者様のコメント ご無沙汰しておりました、もしくは、はじめまして。なうかTです。
最近水面下に潜っておりましたが、この企画には今年もちゃっかり参加したく。
昨年は原作イーグルにチャレンジしたので、今年はTVイーグル風味でチャレンジ。
ランティスさんをこれだけマトモ(??)に書いたのは初めてかもしれません。
そんなこんなはさておき。
イーグル、誕生日おめでとう。
貴方を通じて素敵な皆様と出会えたことに、心からの感謝を。
そしてエストールさま、今年も素敵企画をありがとうございました!



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