birth

ビーーー。

ドアの前に立ちブザーを鳴らす。少しの間の後、小さい画面に少女が姿を見せた。
『あー、イーグルさんだ。お兄ちゃん、アリアちゃん、イーグルさん来ちゃったよ』
『えーっ!話が違うじゃん!グロリア、ちょっとそこで待っててもらって!!』
『はーい。アリアちゃんが、そのまま待っててね、だって』
プツッ。
「………」

一言も発さないまま、通信は一方的に切られてしまった。
どうしたものかと佇んでいると、何の前触れもなくドアが開いた。それと同時に飛び出してきたのは、伝言を頼んだ少女だった。
「ちょっとあんた!時計持ち歩いてないの?!」
「え、いや…持ってますよ」
少女の勢いに驚きつつ、イーグルは時計を取り出した。
「じゃあ、いいオトナなクセして読めないワケ?今何時だと思ってんの?」
「えっと…11時半、ですね」
「約束の時間より30分も早いじゃん!困るわけよ、そういうコトしてもらっちゃあ。オトナだったら、相手の都合も考えなさいよ。だいた…」
「いい加減にしろ、アリア!」
ゴンッ。
気が付けば、少女の後ろにはジェオの姿が。しっかりとこぶしを握り締めている。

「いっつー…。ちょっとジェオ兄(ニィ)!実の妹の頭を思いっきり殴ることないじゃんよ!」
「おめぇがいつまでもバカなこと言ってるからだろ。偉そうな口利きやがって。素直に『まだ準備できてないから待っててください』って言えねぇのか」
「バッカだねぇ、ジェオ兄も。そんなん言ったら、こっちの負けじゃん」
「…何の勝負だよ?」
激しく火花が飛び交う両者。その間に入ることなどできず、イーグルはただ眺めているだけだった。どこか、楽しげに。
「イーグルさん、いらっしゃい!」
難なく兄妹の間を抜けてきたのはグロリア。さすがはジェオの妹。アリアの双子。
「ほら、お兄ちゃんもそれらいにして。アリアちゃん、中戻ろうよ」

「アリアねーちゃーん!この飾り、どこ置くんだ?」
「グロリアお姉ちゃーん!お菓子入れるお皿、どーれ?」

「ほーら、みんな呼んでるよ。早く行こ、アリアちゃん」
「…わかったよ。ジェオ兄。ちゃんとイーグルさんのおもてなししといてよね。くれぐれも粗相のないように!」
「何様だ?お前は…」
「アリアねーちゃんってばー!!」
「あーもう!すぐ行くから待ってなさい!じゃ、また後でね」
…嵐が去った。

「…ったく、疲れるヤツだぜ。悪ぃな、こんな騒がしい家で」
呆れ顔からバツの悪そうな顔に変わるジェオ。イーグルは微笑み、首を振る。
「いいえ、楽しそうで羨ましいですよ」
「お前は、うち来るのもたまーにだからそう思うかもしれないけどな。これが毎日だぜ?俺は」
はぁ〜と大げさな溜息をつく。
本当はまんざらでもないくせに。そう思ったものの、イーグルは口にはしないでおいた。
「さ、ヤツらの準備が終わるまでその辺うろついてよーぜ」
「いいんですか?妹さんたちを手伝わなくて」
「俺の仕事は終わったさ。ケーキやメインの料理は作ったからな。あとはあいつらの仕事だ」
エプロン姿でキッチンに立ち、手際よくどんどん料理を作っていくジェオ。想像してみるとなんだか楽しくなり、つい吹きだしてしまった。
「?なんだよ?」
「いえ、なんでもないです。行きましょう」


「いきなり迷惑じゃなかったか?あいつらも急に言い出すもんだからさ、『パーティやろう』なんて…」
『あいつら』が指すものは、メトロ一家で最も騒がしいアリア・グロリア姉妹である。
兄と仲良くなり時々遊びに来るイーグルに、彼女らは何時の間にかすっかり懐いてしまった。
その彼の誕生日がやってくると知り、自宅で盛大なパーティをすると言い出したのである。
「せっかくの誕生日だったら、家族で食事する予定とかあったんじゃないのか?」
「大丈夫です。両親との約束は夕方ですから」
「そっか」
「それに…嬉しいですから」
「ん?」
「友達やそのご家族に祝っていただけて。こういうのって、久しぶりなんです」
「そうか?でもお前の誕生日って、毎年盛大に祝われてないか?」
彼の家はオートザム一の名門と謳われるビジョン家。毎年かなりの規模で誕生日パーティが催されるのは有名な話だ。
が、イーグルはどこか寂しそうに笑った。
「あれは、別に僕のために開かれているわけじゃないんですよ」
政界人、著名人たちの交流の場の一つにすぎない。彼はいつからか、そのことに気付いていた。
社交辞令のように「お誕生日おめでとうございます」と声をかければ、その後は誰も自分の存在を気にかけていなかった。
ある程度成長すると、今度は自分に気に入られようとする大人たちに囲まれ、愛想笑いをするばかり。誕生日パーティの楽しさなど忘れてしまった。

「こんな風に祝っていただけるのは、もう10年ぶりくらいでしょうか…」
かつては友達を家に招き、お菓子を食べたり遊んだりと、楽しく騒いでいたものだ。
…そう、何も知らなかった頃の話だ。自分がいかに狙われやすい存在かということも。そして、そんな自分の側にいることで、大切な人たちが危険に巻き込まれ得ることも。
知らないままでいられたら、楽だったかもしれないのに……。

ぽんっ。
肩を軽く叩かれ我に返る。ジェオを見上げてみるが、彼の視線は前を向いたままだ。
「おめぇにもいろいろあるんだろ。無理には聞かねぇ」
でも、と、彼はイーグルを視線を合わせた。
「言って楽になることがあれば、いつでも話してくれていいぜ。たいしたこともできねぇだろうが、お前の気持ちのはけ口くらいにはなれるかもしれねぇからな」
「……ジェオ」

出会った時から感じていた、不思議な安心感。心地よさ。何か大きな力に守られているような、そんな温かさ。
周りの人を傷つけるのが怖くて、嫌われるのが怖くて、自分から離れた。自分は独りで居た方がいい。そう信じていた。
でも、自ら全てを遠ざけながら、本当は求めていたのかもしれない。
彼のような存在を。勇気を与えてくれる、こんなぬくもりを……。


「おにいちゃーん!イーグルさーん!準備できたよー!!」
「ぐずぐずしてないで、さっさと来なよ!こっちは待ちくたびれてんだからさ」
…ぬくもりの質が変わった、そんな気がした。
「あー、すぐ行くよ!…っとに騒がしいヤツらだ。特にアリアのやつ。待ちくたびれてんのはこっちだっつーの」
どーしてあー、口が悪くなっちまったかなぁ。そうぼやくジェオに、イーグルはにこりと笑う。楽しそうに。
「ジェオに似たんじゃないですか?」
「あぁ?」
「ほら、そういう口調。きっとジェオを真似してるんですよ」
そう言うと、声を上げて笑い出す。一瞬ぽかんとしたジェオだが、
「…かもしれねぇな」
と、イーグルにつられるように笑い出した。ひとしきり笑うと、イーグルの頭に手を置いた。そしてその柔らかな髪をかき乱す。
「結構、生意気なコトも言えるじゃねぇか。それくらいの方が子どもらしくていいぜ」
「…もう『子ども』じゃないんですけど」
「まだまだガキだよ、俺からすりゃあな!さ、行こうぜ」
イーグルの腕を引っ張りながら、ジェオは玄関へ向かって歩き出した。

…子ども、か。
少しだけ、そんな頃に戻ってみるのも悪くないかもしれない。そう思って、ふっと笑った。
時はもう戻らないけれど、あの頃の自分にはなれないけれど、『心』はきっと、変わることができる。
いや、変わってみせる。過去のために、そして、未来のために。


今日は、新しい『心』が生まれた日。




おしまい



▼実月みゆ様の素敵サイト
作者様のコメント
昨年の誕生日小説は『イーグル&ランティス』でしたので、
今年はジェオ(&メトロ一家)で書いてみました。
オリキャラの妹たちがやたら目立ってますが(苦笑)、
そんな賑やかさやジェオの温かさ、そしてイーグルの心が
癒されていく様が少しでも伝われば、と思っております。




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